ひとつひとつに、エールを込めて。 町と歴史が育んだ「縁起菓子」

虎屋菓子補

北総の小江戸と呼ばれる、水郷の町・佐原。関東指折のパワースポットとして知られる「香取神社」に守られるこの地は、かつて利根川舟運の中継地として栄え、小野川周辺を中心に江戸情緒を色濃く残す町だ。成田空港に近いこともあり、近年は多くの外国観光客が訪れている。

そんな趣を携える佐原の町に、江戸初期の明暦3(1657)年創業の老舗「御菓子司虎屋」はある。歴史を受け継ぎ、19代目店主・高橋良輔さんが新たな歴史を刻み始めるー

先々代考案、「とらやき」の復活へ

高橋さんの挑戦は、大正期のレシピを紐解く作業から始まった。

「香取神宮は経津主大神(ふつぬしのおおかみ)といって、商売繁盛や勝負運にご利益のある神様です。その御神水を使い、生命力あふれる虎にあやかった菓子を作れば、最強の縁起菓子になると考えたのです(高橋さん)」。こうして何百回という試行錯誤を重ねた末、新生「とらやき」が店頭に並んだ。

上品な甘さの粒餡を、しっとりとした生地が包む。さらに餡の上に塩味の効いたバターを乗せた「とらやきバター」が、店の一番人気だ。食べ歩き用に購入した観光客が帰りにおみやげ用として購入するなど、その美味しさに触れリピートする方が多いという。

町とともに刻んできた家の歴史

2021年に、土蔵様式に建て替えリニューアルオープンした虎屋菓子補。壁や店内には明治期より使用されていた干菓子用の木型、配合帳や計量器などがディスプレイされ、その長い歴史を物語る。

「佐原は数百年と続く商家など、名家が多い土地です。幼い頃から、町や周囲の方たちから自然とそのレガシ―を受け継いできました。祭りや各家の祝いごとの際、当家の菓子がその一端を担ってきた事実を誇りにしながら、縁起菓子を通して町や人を応援し続けたい」。と想い語る高橋さん。結婚、入学・卒業といった祝いごとはもちろん、商談、受験など大勝負に挑む際、必ず店に訪れるという常連は多い。職人の想いをはじめ、店内や商品コンセプトなど随所に込められたエールが、それに応える。

歴史と今の掛け合わせで新たな魅力の創造を

19代目女将の発案で生まれたカップ入りの「TORA3°(トラサンド)」は、食べやすさと見た目のかわいさから大人気に。ちなみに、「虎柄の生地でサンド×3℃が食べごろ」という遊び心から、この名が付いたという。

「TORA3°は、虎屋菓子補が培ってきた味と心に、大正モダンの先陣をきっていた先々代女将との記憶、そこに現女将の、持ち帰りやすさへの配慮や現代風のセンスが加味されて生まれた商品です(高橋さん)」。

ストレスなく楽しんでほしいという想いから、カップや帯、匙の形状など細部にもこだわりが。美味しかった。そう笑顔になって頂くために、高橋さんは細部にまで手を抜かない。

“いいもの”を未来につなぐ責任

SDGsの取り組みにも積極的だ。皮をくり抜く際にロスになる部分を、その形を活かしてリング状の焼きラスクに。“御縁”を生む「虎スク(※店頭販売のみ)」が誕生した。ほんのりと甘く軽やかな食感で、近所のご住職をはじめファンが多い。

「和菓子は素材が命なのでこだわるのは当然ですが、単に“いいもの”ではなく、今後は可能な部分は地産地消を意識して、香取市佐原の魅力を国内外に発信したいと考えています」と高橋さん。千葉の落花生や香取市特産のサツマイモや米、果物を起用。また香取市は“醗酵のまち”でもあり、酒やみりんなど上質な素材にあふれている。そこに香取神社のご利益が加われば無敵だ。

この地だからできる、うちだからできる。その強みを活かして、虎屋菓子補は未来に向けてエールを送り続ける。

虎屋菓子補
〒287-0003 千葉県香取市佐原イ 1717
0478-52-2413
10:00〜18:00
水曜日 年末年始

https://toraya-coedo.co.jp/

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