小江戸・川越の歴史とともに “上物主義”を貫く“上物”の味

龜屋

蔵造りと呼ばれる建築様式の古い土蔵や商家が立ち並び、江戸時代の面影を色濃く残すまち、川越。歴史情緒あふれる景観から「小江戸川越」と名高く、国内外から多くの観光客が訪れる。そんな川越のまちとともに240年以上歩み続けてきたのが、中心部・仲町に本店を構える龜屋だ。代々、川越藩御用達として菓子づくりを続ける一方で、銀行業や商工会議所の設立のほか、「山崎美術館」開設など、いち商人として地元発展の一端を担ってきた龜屋が貫く、『上物主義』の心とは。

妥協を許さない心意気、『上物主義』

「川越は、3路線が乗り入れ東京都心から1時間程度とアクセスのよい位置にありながら、江戸時代の趣と、いい意味で田舎の風情を残す唯一無二のまち。関東三大祭りのひとつ『川越まつり』に代表されるように、市民が団結して古き良き文化を未来につなごうという意識が強く、近年はそれに共感する若い世代の活躍も目立つなど活気にあふれています」。川越についてこう語るのは、2024年7月、先代である父より龜屋の9代目を継いだばかりの、山﨑淳紀さん。

龜屋は、江戸後期の天明三年(1783)、初代・山﨑嘉七が、現在本店がある仲町に創業。そのとき掲げたのが、品質に一切の妥協を許さない意を示した『上物主義』だった。この姿勢が支持されたことで、川越藩の御用商人として認められ、後に続くこととなる。

仲町で、龜屋がなければ恰好が付かない

城下町だけに、川越のベースにあるのは「武家文化」。龜屋の店内には、公家文化である京都の雅で華やかな菓子とは異なり、“質実剛健”を具現化したような凛とした菓子が並ぶ。「代々、龜屋が大切にしてきたのが、“質”を重んじる姿勢です。派手さや華やかさを良しとせず、過度な自己主張をしません。特に曾祖父は色合いについて厳しく、よく職人に『色味を押さえよ』と言っていたと伝え聞いています」。

初代より続く『上物主義』も、一切揺るぐことはなかった。戦争が始まり物資が窮乏すると、「闇市で買ったような素性の知れない砂糖は使えない」と、昭和18(1943)年に休業を決断。ところが、「戦争が終わって、復興を願う川越市民の力によっていち早く川越まつりが復活したのですが、その時『仲町で龜屋さんが閉まっているのでは、恰好が付かないよ』という多くの声をいただいたんです。とはいえ菓子づくりはすぐには再開できないので、急きょ、菓子ではなく別の商品を用意して無理やり店を開けたそうです(笑)」。

370年もの歴史を持つ伝統行事、「川越まつり」。絢爛豪華な山車が町中を曳行し、2日間に80万人以上もが訪れる壮大なまつりだ。川越っ子の魂といってもいいこのまつりの風景のなかに、龜屋は欠かせない存在となっていた。

『上物主義』と胸を張れる十分な準備が整い、菓子づくりを再開したのは昭和27(1952)年。以降、変わらず川越・仲町のランドマークとしての役割も担っている。

誠実であることこそが老舗の責任

5代目が考案したサツマイモを薄く切って焼いた『初雁焼』は、現在、川越の名物である「芋煎餅」の元祖とされている。そして6代目が、いまの看板商品でもある亀甲型でひと口サイズの「亀の最中」を、先代である8代目が、亀の甲羅の形をしたどら焼き『亀どら』を開発。そのほか、老舗醤油とのコラボや川越茶を練り込んだ最中など、地域色を活かした商品も誕生させてきた。

「近年は“龜屋の最中”と言っていただけるほど定着していますが、実は私も大好きで、プライベートではぜんざいにアレンジするなどして楽しんでいます。さまざまな商品展開を行っていますが、やはり重要なのが中の餡。今後も、 納得のいく本物だけを使った“上物”の菓子を作りだしていきたいですね」。

なぜ、本物にこだわるのか?「主義から外れることは、お客さまを裏切ること。数百年かけて得た信頼も、たった一度の裏切りで失うものだ」という8代目の言葉を例に挙げ、淳紀さんは、誠実であることこそが老舗の責任だと言葉を強める。「長く続く商家が並ぶまちだけあって、常連さまのなかには200年来のお付き合いという家も珍しくありません。私の代で裏切るわけにはいきませんよね」。

決して着飾るのではなく、龜屋らしい進化を

主義を貫くという矜持をもつ一方で、龜屋には「家業は世の進歩に準ずべし」という家訓がある。菓子づくりも、社会や仕事のやり方や在り方も変わっていくなかで、「進歩とは何か」を見極めることが、新たに暖簾を託された淳紀さんの課題だそう。「世の中でいう進歩が、そのまま龜屋の進歩に当てはまるとは限りません。たとえば、業務のスリム化が進んでいるからうちの仕事もスリム化しよう、とか、原材料の価格が上がっているから、単純にうちも上げよう、もしくは素材を変えようということではないですよね。先代が築いてきた“龜屋らしさ”とは何なのかという部分から外れないよう、自ら新たな判断基準を築いていかねばなりません」。

そうして手掛けたひとつが、パッケージのリニューアルだ。「美味しさにかけては自信がありますが、まずは知っていただかなくてはとデザインを変えたところ、すぐに若い方たちから反響がありました」。

決して着飾るのではなく、あくまで龜屋らしく。移り変わる時代のなかでも亀のごとく地道に、着実に。先代たちが築いてきた信頼というバトンを未来につなぐため、9代目・龜屋が、どう時代に合わせて進化していくかにも注目したい。

龜屋 川越本店
〒355-0065 埼玉県川越市仲町4-3
049-222-2052
9:00~18:00
年中無休

https://www.koedo-kameya.com/

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