米沢の地に生まれるべくして生まれ 歴史に育まれた伝統菓子

永井屋

山形県の最南部、吾妻連峰の裾野に広がる米沢盆地に位置し、豊かな自然の恵みを享受する米沢市。江戸時代には名将・上杉謙信を祖とする上杉家の城下町として栄え、数々の史跡と伝統が息づくまちでもある。

江戸時代後期の創業より、米沢の歴史とともに歩んできた「永井屋」。その店頭には、歴史の証人ともいえる菓子が並ぶ

“お国替え”により米沢へ

越後を主な拠点としていた大名・上杉景勝は、関ヶ原の戦い後、減封により初代藩主として米沢城に入城する。「いわゆる、お国替え(※幕府の政策で大名の領地を移し替えること)ですね。お殿様に付いて新潟の六日町から移り住んできた領民のなかに、永井のご先祖がいたのです」。永井屋は米沢の歴史とともにあると語るのは、5代目・永井栄吉さん。「お国替えは、寺社や墓に至るまでまさに国を挙げてのお引越し。新たな土地で一から始めなければならない当時の人の苦労は、並大抵のことではなかったでしょう」。

創業は1802(享和2)年。江戸時代屈指の名君として名高い9代藩主・上杉鷹山の手腕によって領民の暮らしが安定した時代に、永井屋は誕生した。もともとは米や大豆、粟や稗などを扱う穀物商として始まり、菓子は、店のきな粉などを使った二次的な商品だったという。

「菓子屋として成り立つようになったのは明治以降です。小麦粉や砂糖がまだ一般的ではなかったのもありますが、鷹山公の倹約エピソードで知られるように、それまでの米沢には一般の人がお菓子を買うような余裕がなかった。米沢の発展とともに、“菓子司 永井屋”は誕生したのです」。

上杉鷹山公を魅了した『時雨の松』

代表菓子である『時雨の松』は、凛とした美しさで上杉鷹山を魅了。「鮮やかな緑に雨が滴る松のようだ」と称えたことが、その名の由来と伝えられている。地産の青畑豆をきな粉にし、砂糖と水あめを練り込んだシンプルな半生菓子で、松を思わせる緑青の地板にかたどられた流れる雨が印象的だ。

もうひとつ、『元祖 くるみゆべし』も上杉藩にゆかりの深い逸品。くるみが入った醤油味の餅菓子で、藩の兵糧として発達したという。兵糧には、日持ちと腹持ちの良さ、そして長旅中にも人に活力を与えるような美味しさが求められる。「先達がさまざまな試みを経て形となったのがこの商品です。上杉藩が福島を統治していた時代、現・福島市の信夫山が柚子の北限であることに由来して柚餅子(ゆべし)が作られたこともあったのですが、その領地を召し上げられたことで柚子が手に入らなくなってしまった。そこで先達が、地産のくるみを加えることを発案したのです」。

まさに歴史が生んだといえる、くるみゆべし。現在、同様の商品は全国にもあるが、歴史的背景とともに味わえるものは、ここにしかない。

菓子には人を幸せにする力がある

「米沢では“じんだん餅”と呼ばれる枝豆を使ったずんだ餅も、古くからこの地の名物です。宮城名物として有名ですが、仙台の武将・伊達政宗も米沢出身。故郷の味として懐かしんでいたかもしれませんね」。近年人気を博しているのは、その“じんだん”を古代米黒米餅でくるんだ商品、『大黒舞』だ。大黒舞とは新春を寿ぐ舞や民謡で、東北地方の各地で継承されている民俗芸能。『大黒舞』はその縁起の良さと、黒い餅に鮮やかな緑が映えるインパクトから全国にファンが多い。毎年、祭事の際には必ず注文されるという大阪の企業、催事で商品を知り「故郷、米沢が懐かしくなった」と電話をくださった地方在住の女性。菓子を通じて、地元の方はもちろん全国の人と交流を持てるのが、永井さんの喜びだ。

「菓子には、人を幸せにする力があります。子どもも大人も、大金持ちもそうでない人も誰もが購入でき、みんなが同様に笑顔になれる。そんなものは他にはないでしょう。私は、美味しかったという声から生きる力をいただいています」。

米沢で生まれた味をつなぐ責任

技術もさることながら、永井屋に代々継がれてきたのはチャレンジ精神だという。「今が最高、ということは決してありません。常に試行錯誤の繰り返しです。くるみを入れたゆべしの発案や、板上に時雨を表現した『時雨の松』をスティック状にアレンジしたのも、大胆な試みでした。時代に合わせることで伝統を継承してきたのです」。

味も、時に応じて少しずつ変える。きな粉やもち粉などの材料も、気候や情勢を汲んで調整を図りながら変えていく。永井屋の味を愛してくださる方に「変わったな」と思わせないために、変えていく。

「当店の菓子を生んだのは、先代たちであり、この米沢の地です。私が生み出したものではないだけに、いかにして後世に引き継ぐかという責任があります」。この土地に生まれるべくして生まれ、歴史のなかで、ときに翻弄さながら育まれ、継がれてきたお菓子。それは歴史と歴史をつなぐパーツとして、米沢の地にあり続ける。

永井屋

〒992-0045 山形県米沢市中央4-16
0238-23-0381
8:00 ~ 19:00
無休

http://nagaiya.jp/

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