“広島といえばもみじ饅頭”。県内きっての観光名所・宮島生まれの『もみじ饅頭』は、明治に誕生して以来、広島を代表する銘菓として愛されて続けてきた。宮島に本店を構える「やまだ屋」は、現在100ほどもあるもみじ饅頭メーカーのなかでも、約95年の歴史を誇る老舗のひとつ。宮島の文化を未来につなぐべく、その心意気は熱い。
地域の菓子文化に触れてほしい
宮島から瀬戸内海をはさんだ廿日市市沖塩屋「おおのファクトリー」には、途切れることなく見学者が訪れる。旅行者はもちろん、地元の小中学生や地域・団体、ときには海外からのツアー客も。
「当ファクトリーでは、もみじ饅頭をはじめ、地域で生まれた菓子を文化として未来につなぐことを目的に、菓子作りの歴史や製造の工程を公開しています。宮島の本店では、職人が手焼きする様子を披露するほか、手焼き体験も行っていますよ」。案内してくれたのは、営業本部次長の相野智幸さん。饅頭のカステラ生地は手焼きするとふっくらとやわらかく仕上がり、その厚みや食感は機械焼きとは別ものという。さらに自分で焼いたものなら感動はひとしおだろう。
丁寧に水晒を重ねた無二のこしあん
やまだ屋が誇るのは、なんといってもこしあんだ。「当社は50年以上もの間、こしあん一本でやってきました。特徴は、圧倒的に水晒(さらし)の回数が多いことです。何度も丁寧に水に晒すことで雑味やえぐみを無くし、口どけをよくする。お酒でいったらあずきの大吟醸ですね」。
手間ひまだけでなく昔ながらの材料や製法にこだわるため、「はっきりいってパフォーマンスは良くない」と笑う相野さんが推すもうひとつの商品が、『桐葉菓(とうようか)』だ。広島の地に伝わる茶道、上田宗箇流にご縁を得て生まれた菓子だという。「お茶席用に作ったもので特に宣伝することはなかったのですが、口コミで広がり高い評価をいただくようになりました。自慢のこしあんと粒あんの“合わせあん”で、風味と食感をお楽しみいただけます」。
菓子屋はおいしいものを作ることが使命
高校時代にアルバイトをしていた縁でやまだ屋に入社した相野さんだが、実はもともと、あんこが得意ではなかったという。それでも入社した理由は、アットホームな社風に惹かれたから。「空いた時間にパートさんとお茶をしたり、誕生日には会社からケーキを贈られたり。残念ながらそれらの習慣は社内編成やコロナウイルスの影響でなくなりましたが、そのあたたかさこそが当社の味の秘訣です。なにより、あんこが苦手だった自分でも、当社の商品なら純粋に美味しくて」。業務を通してやまだ屋の理念を理解し、外からの評価を聞くほか他社の菓子を研究したことで、自社の価値を再確認。営業担当として、その魅力を広く伝えたいと考える相野さんだが、「菓子屋はおいしいものを作ることが使命」という信念のもと、やまだ屋では過度なアピールやマーケティング戦略といったことをほぼ行っていないという。「たとえば、近年は甘さ控えめが主流と聞いても、『甘くてあんこがしっかり入っていてこそ饅頭だ!』と安易に味を変えません。そういう一途な頑固さが社風としてあるんです」と苦笑いしつつも、その頑固さがあるからこそ、軸がぶれることなく新たな展開が叶うと語る。
だが一方で、直に聞こえるお客さまの声には応えてきた。“こしあんだけでは飽きるからバリエーションが欲しい”“季節の贈答にしたい”といった要望に、「気が付けば業界内でも最大級に種類が増えていました(笑)。もみじ饅頭は常時15種、年間20種ほどあります」。特大サイズの『大もみじ』、常識を覆した餡の入っていない『チョココーティングもみじ』の開発など、冒険心や遊び心はどこよりも旺盛だ。
地域とともに歩めば文化は続く
やまだ屋は地域貢献を理念に掲げ、おおのファクトリーでは工場見学のほか、年に数回、地域の方を招いて無料のコンサートを開催している。また、併設する茶室を地域交流の場として提供することも。一方、宮島にある本店では謙虚な姿勢を貫く。宮島表参道商店街には多くのみやげ物店が軒を連ね、各店の呼び込みも名物のひとつとなっているが、やまだ屋では積極的にそれをしないという。「周りの店に迷惑をかけちゃいけないと、先代が叱るんです。営業の立場としては“えーッ!?”ですよ(笑)」。一歩下がって地域のために。地域とともに歩めば、文化として100年、200年と継がれていくだろう。そんな確固たる想いが、小さなもみじの中にずっしりと詰まっている。
「当社に限らず、広島、特に宮島の風土として、皆で盛り上げていこうという気質は強いと思います。もみじ饅頭は宮島あっての菓子。だからこそやまだ屋はそんな地域や人への愛を込めて、あん菓子を作り続けます」。
やまだ屋 宮島本店
〒739-0588 広島県廿日市市宮島町835-1
0829-44-0511
9:00~18:00
年中無休
おおのファクトリー
〒739-0443 広島県廿日市市沖塩屋2-10-52
080-3879-4871
9:00~18:00
年中無休