皿上に花開く、美しい日本の春
寒さがゆるみ春の気配を感じるようになると、いっそう華やぎを増す和菓子店のショーケース。季節の情景そのままのパステルカラーに彩られた和菓子たちは、見ているだけで心躍ります。今も昔も、そんなわくわく感は同じ。平安貴族から戦国武将、そして江戸の庶民まで、時代を越えて愛されてきた春の和菓子を紹介します。
おいしく食べて、同時に邪気払い
その色合いから、新緑や咲き誇る桜を思い起こさせる草餅や桜餅。美しい見た目だけでなく、ヨモギや桜の葉など、自然の恵みを取り入れた味わいもまた楽しみです。特に草餅は深い歴史を持つ和菓子のひとつ。平安時代にはすでに、宮中の女房たちが山で摘んだ野草を草餅にして食べる習慣がありました。野草を使うのは、独特な強い香りで邪気や穢れを払うため。冬の間不足しがちだった栄養素を補う意味もあったと考えられています。香りを楽しむ和菓子という点では桜餅も同じ。桜の葉には抗菌作用があり、暖かくなってくる季節は餅の防腐効果も期待できるそう。野山に芽吹くみずみずしい生命力を味わえるのも、春の和菓子ならではといえそうです。
あの武将が考案した春の名物とは?
春といえばお花見ですが、桜よりおいしいものが楽しみな「花より団子」派も多いはず。この時期らしい団子といえば、ピンク・白・緑の色合いがかわいい三色団子が思い浮かびます。三色団子にゆかりが深いのが、あの戦国武将・豊臣秀吉。派手好きの秀吉が、京都・醍醐寺に総勢1300人以上を招いて「醍醐の花見」を開催した際、茶菓子として考案されたのが始まりとか。三つの色は、春の情景を表現している説のほか、雪・新緑・花という四季のうつろいを表現したという説も。江戸時代、庶民の間で花見がブームになると同時に三色団子の人気も広まり、「花より団子」の言葉が誕生しました。江戸っ子も現代人も、おいしい和菓子を前にして思うことは同じかも?
祈りを込めた家庭のおやつ・ぼた餅
華やかなものが多い春の和菓子の中で、少々地味ながらも長く大切にされてきた菓子があります。春分の日の前後7日間の「彼岸」にお供えされるぼた餅です。春の彼岸は、墓参りをして先祖を供養する仏教の法要と、本格的な農作業が始まる前に豊穣を祈る儀礼が合わさり、日本独自の習慣として発展しました。餅を小豆あんで包んだぼた餅を食べるのは、小豆の赤い色に邪気を払う力があると信じられていたため。「ぼた」は春の花・牡丹のことで、秋の彼岸では、秋に咲く萩の花になぞらえおはぎと呼ばれるようになりました。江戸時代には各家庭でぼた餅を作り、ご近所同士で贈り合ったという記録も。人々に愛される素朴なおやつだったことが伺えます。