各界の要人や玄人たちを魅了した 小ぶりなのにずっしりと重い茶屋街の粋みやげ

きんつば中田屋

加賀藩の時代より茶の湯がさかんだった金沢では、それに伴って、和菓子の文化が発展。京都、松江に並び、屈指の和菓子処として知られている。また、和菓子の消費金額においては常に日本でトップクラス。名実ともに和菓子愛に満ちた土地で、「きんつばといえば~」と称されるほど確かな信頼を得ているのが昭和9年創業の「きんつば中田屋」だ。日本三大きんつばとも名高い“中田屋のきんつば”は、いかにして誕生したのか。伝統が息づく古都・金沢を訪れ、その魅力を探ってみたい。

古都・金沢ではまだ90年の“若手

「江戸時代創業の老舗が多い金沢において、中田屋は、2024年に創業90周年を迎えたばかりのまだまだ若手なんですよ」と語る代表取締役社長の中田竜也さんに、中田屋の歴史を聞いた。

「祖父にあたる初代・憲龍は、金沢市南郊にある鶴来町(現・白川市)の出身です。菓子屋での修行を経て独り立ちし、昭和9年に故郷の鶴来で創業しました。戦後、昭和21年に金沢市の東山へ移転して以降、伝統の味と製法を守りながら今に至ります」。創業当初は、「朝生」と呼ばれるおはぎやまんじゅうのほか、伝統菓子である生姜煎餅『大柴船』などが主力商品だったという。日持ちがしない『きんつば』は、当時の状況下では提供できる時期が限られ、定番化できなかったためだ。「ですが、初代のきんつばへの想いはひと一倍強かったようで、創業時から改良を重ねていたと聞きます。私も幼少期、祖父が作ったきんつばをよく食べていましたね」。

味を支えるのは全スタッフの結束力

しっとりとなめらかで、特に粒あんの「豆」の食感にこだわった“中田屋のきんつば”。保存や包装、流通の発達とともに商品の定番化が叶い、現在は東京や大阪など直営店が12店舗にまで広がった。

「素材や製法に特別なことは何もないんです。選び抜いた確かな材料を使って、熟練の職人たちが丁寧に作り上げ、安定した品質で提供し続ける。それに尽きます」。定番の大納言小豆のきんつばほかにも、うぐいすやさくらといった季節のものや、餡の魅力をダイレクトに味わえる「鍔もなか」も外せない逸品。上品な甘さのなかにもしっかりとした食べ応えがあり、記憶に残る味わいだ。

そんな中田屋の味を支えるのは、職人だけではない。同社の新入社員は研修として製造や出荷、店頭での接客などを経験して各所に配属されるが、研修カリキュラムには「きんつばづくり」もあるという。全員が職人の指導の下に伝統の技法を学び、その精神を会得するのだ。想いをひとつにすることで生まれる、社内の家族的な雰囲気や結束の固さはYouTube動画などからも伺い知ることができるので、ぜひ覗いてみたい。

茶屋のみやげとして喜ばれたきんつば

いまや「日本三大きんつば」とも謳われる“中田屋のきんつば”だが、その評判が全国に広まったのはほぼ口コミだったという。口コミの発信源は「ひがし茶屋街」。重要伝統的建造物群保存地区に指定され、現在は金沢を代表する観光スポットとして人気のひがし茶屋街は、かつては芸妓あそびなどの大人の社交場として栄えた歓楽街。政財界人をはじめ、多くの文人や芸術家が訪れ、それを迎え入れてきた由緒あるまちだ。

「ひがし茶屋街のすぐそばに中田屋の代表店舗でもある東山店があるのですが、茶屋のみやげとして、よくご利用いただいていたのです。金沢人の気質として、すでに有名なものよりも“知る人ぞ知る”ものを人にお薦めするのが粋。そこで、当時はまだ家族経営で小規模だった当店のきんつばが珍重されたのでしょう」と語る中田さんだが、本物を知る、各界の要人や玄人たちの舌は確か。小ぶりな見た目に反してずっしりと重い“中田屋のきんつば”は、茶屋街の和菓子として、着実に人気と信頼を得ていった。

現在、ひがし茶屋街のなかにある東山茶屋街店併設のカフェ「甘味処 和味」では、気軽にきんつばや能登大納言小豆を用いた洋菓子などが食べられる。賑わう茶屋街の雰囲気とともに味わいたい。

動画で海外の方にも魅力を発信

若手スタッフの活躍も、中田屋の特徴のひとつだ。入社して15年目の北川爽さんは、営業部に配属されたばかり。10年以上販売員として店頭に立ち、20代で売上№1である金沢百番街店(駅構内)の店長も務めた。店頭では、多くの観光客から「おみやげランキングで1位だったね」、「金沢に来たらこれを買わなきゃ」と声を掛けられるという。「入社当時、“金沢のきんつばといえば~”と言われる当社に入社できたことで、両親も祖父母もすごく喜んでくれました。次の世代もその次の世代にもそう言われ続けるよう、中田屋の看板を守らねばと思っています」。

同じく営業部で、入社3年目の橋上優里さんは、主にSNSを担当。日々の情報発信はもちろん、90周年記念動画の制作にも携わった。「菓子作りの裏側をお見せするなどして、年齢を問わず多くの方に、和菓子をもっと身近に感じてもらいたいです。近年は外国人のお客様方が増えましたし、動画を見て当社を知ったという海外在住の方からメッセージをいただくこともあります」。たとえ日本語がわからなくても、動画であればメッセージを伝えやすい。国内外のひとりでも多くの方に、和菓子、そして中田屋の魅力を伝えていきたいと目を輝かせる。

金沢百番街店のショーケースには、中田屋のシンボルであり、創業者の名前にも由来する「龍」が舞う。中田社長の発案で導入した、デジタルサイネージと映像を使った“動く看板”だ。積極的に新たな発想やツールを取り入れながら、中田屋は、龍のごとく未来へと舞い昇る。

インタビュー:2025年1月

きんつば中田屋 元町店
〒920-0842 石川県金沢市元町2丁目4番8号
9:00~18:00
076-252-4888

きんつば中田屋 東山茶屋街店
〒920-0831 石川県金沢市東山1丁目5番9号
9:00~17:00
076-254-1200
和味 9:00~16:30 16:00
オーダーストップ 16:00

https://www.kintuba.co.jp/

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