Vol.5 初夏を告げる涼し気な和菓子

歳時記

一年の半分の区切りを、特別な和菓子と共に

6月になると「そろそろ、今年も半年経つのか」と時の流れを実感するもの。日本各地の神社でも、一年の前半が終わる6月30日、半年分の厄を祓い残り半年の無事を祈願する神事「夏越の祓」が行われます。この時期に食べられる和菓子が「水無月」。旧暦6月そのものの名前を冠した、涼し気な和菓子の逸話をご紹介します。

茅の輪と並ぶ、京都の初夏の風物詩

「夏越の祓」が近づくと神社に設置されるのが、イネ科植物の茅(ちがや)で編んだ「茅の輪」。その昔、旅の宿を求めたスサノオノミコトをもてなした蘇民将来という人物が、茅の輪を身につけ疫病を免れた故事が由来とされています。元々は古代宮中で始まった神事が民間に伝わり、今では私たちにも身近な厄除け行事となった夏越の祓。巨大な茅の輪を8の字を描くように3度くぐり抜ける「茅の輪くぐり」の経験がある人も多いでしょう。

そしてこの夏越の時期、無病息災の祈りを込めて食べられるのが、京都発祥といわれる和菓子「水無月」。6月になると、京都市内の和菓子店はもちろんスーパーの店頭にも必ずといいほど並んでいる、季節を告げる和菓子です。

あの高級品に見立てて夏バテ予防

白いういろうの上に甘く煮た小豆をちりばめ、三角形に切り出した水無月。和菓子では珍しい角ばった形状は、なんと氷の“見立て”といわれます。今でこそ夏は氷菓を食べて涼をとるのが一般的ですが、冷蔵技術のない時代はそうはいきません。冬場に氷室で保存していた天然の氷を暑い時期に味わえるのは、高貴な身分の人だけ。旧暦6月1日の「氷室の節句」には、氷室から宮中へ献上された氷で暑気払いが行われていたそう。庶民もそんな風習に倣い、貴重な氷を象った和菓子を食べて夏バテを予防したといわれます。上に乗った赤い小豆には、邪気払いの意味合いも。暑気払いと邪気払い、ふたつの祈りが夏越の祓の神事と結びついて生まれたのが水無月なのです。

時代により変化を遂げた行事菓子

水無月の形の由来にはもうひとつ説があります。それが夏越の祓の神事に使われる「御幣」。真っ白な半紙を折りこんで木にさした御幣は神の依り代とされ、お祓いでは穢れを清める際に神主が振るもの。確かに、御幣の先端を見ていると三角形の形が重なります。

とはいっても、室町時代から江戸時代まで夏越に食べられていたのは丸型やねじり形の蒸餅で、今とはまったく違う形状でした。明治以降、京都の和菓子店により、季節柄を取り入れた新しい行事菓子として作られたのが現在の水無月です。軽く冷やせば、むっちりした食感とやさしい甘さがより際立ち、じめじめした梅雨の気分を吹き飛ばしてくれそう。初夏の京都旅の折りに、ぜひ味わいたい和菓子です。

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