京都駅直結の商業施設内、京都の選りすぐりの菓子が並ぶ「おみやげ小路 京小町」で、女性客が思わず「かわいい!」と足を止める。色とりどりの輝く、種類豊富で愛らしい半生菓子。美しい京菓子のイメージをそのまま形にしたような菓子たちを前に、なかなか選びきれないと悩む女性たち…。
昭和2年の創業より培った技法で、四季折々の風物を半生菓子で表現する「髙野屋貞広」。小学生から外国人まで、魅了される人々の層は幅広いー
半生菓子なら、感動をお届けできる
昭和40年代、二代目・髙野尚久が、当時京菓子のなかでは脇役的な存在だった半生菓子に注目。ゼリー、松露、求肥、落雁、餡物などさまざまな素材と技法を駆使した「花の宵」を誕生させた。以降、髙野屋貞広は、半生菓子をひとつの菓子として確立させたといわれている
「京菓子は元来、宮中や寺社に献上される上生菓子が中心ですが、数日の日持ちしかしないため、かつては京都でしか味わえませんでした。京菓子の魅力をどうしたら広くお届けできるだろう?というのが出発点です」と語る、髙野屋貞広 営業課の池田共平さん。余分なものを加えずに日持ちさせるには?崩れない形状や梱包は?というように、そのままの感動を届けたいという一心から、「花の宵」は種類を増していった。
選ぶ楽しさと、知るきっかけを提供したい
「花の宵」は、好きなものを選んで自由に箱に詰め合わせることができる。好みの味や見た目、また贈る人の笑顔を想像しながら選ぶのはこの上なく楽しい。こうじゃないああじゃないと並べ方にまでこだわるお客様の姿は、池田さんをはじめ髙野屋貞広全員の喜びだ。
感動を届けたい一方で、鮮やかな見た目をきっかけに、若い世代にもっと和菓子の魅力を知ってほしいという思いもあるという。「若い方のなかには、落雁やあんこ玉を知らない人もいます。和菓子文化を未来につなぐためにも、まずは“こんな素敵な菓子がある”と知らせることも私たちの努め。和菓子に興味を持つきっかけになると嬉しいですね」。
SNSをきっかけに、若い層に大バズり
そんななか、SNSで“バズった”商品が『琥珀糖 京こごり』だ。外側はシャリシャリ、内側はプルッとした食感と宝石のような見た目、そして噛んだ時の独特な音が中高生にうけ、爆発的な人気に。修学旅行で購入したのをきっかけに「学校の実習で作ってみた」という声まで届いたという。
そして、近年ずば抜けた人気を誇るのが、求肥もち菓子『みやこシリーズ』。「これを目当てに来てくださる小学生の男の子や、“MOCHI”と尋ねてこられる外国人観光客の方も多いですね」と、老若男女・国内外問わず、もち人気を実感している池田さんだ。
和菓子を通して文化を世界に
連日多くの外国人観光客で賑わう京都。市内のとある居酒屋が、食後のサービスとして髙野屋貞広の半生菓子を提供したところ大きな反響を呼び、それをきっかけに来店される外国人の方が増えたという。「私たち和菓子に携わる者にとっては当たり前のことですが、この繊細さはなかなか海外にはないですよね。ひとつの和菓子が日本文化を知っていただく入り口になれたことを、嬉しく思います」。
髙野屋貞広の合言葉は、“お客様の笑顔優先”。職人をはじめ全員が、お客様が箱を開けた時にどんな顔をされるかを思い描きながら、それぞれの仕事に当たっている。
受け継がれる伝統や文化を大切にしながらも、これからの世代にどうアプローチしていくか。その答えは、ショーケースを前にあれこれ迷う、お客様の笑顔のなかにある。
髙野屋貞広本店
〒601-8162 京都府京都市南区上鳥羽塔ノ森柴東町210
075-662-6263
9:00~18:00
日曜、祝日