Vol.8 先祖を迎え、見送る和菓子たち

歳時記

 

「お盆は実家に帰るの?」——この時期、そんな会話を交わす人も多いはず。家族で集まりご先祖さまの霊を供養するお盆は、多くの日本人にとって重要な年中行事のひとつ。お盆のお供えといえばハスや菊の花を象った落雁をよく見かけますが、それだけではありません。さまざまな盆菓子から、人々の想いが見えてきます。

貴重な砂糖菓子で先祖をお迎え

お盆のルーツは仏教行事「盂蘭盆会(うらぼんえ)」。目連という僧侶が釈迦の教えに従い、旧暦7月15日に、飢えに苦しむ人や修行僧に食べ物を振る舞う「百味飲物(ひゃくみおんじき)」をしたことが由来とされています。この盂蘭盆会が7世紀頃日本に伝わって日本古来の祖霊信仰と融合し、平安中期に宮中行事として定着。一般家庭までお盆が浸透した江戸時代になると、日持ちするお供えとして、貴重な砂糖を固めた落雁が広まりました。落雁は極楽浄土に咲くとされるハスや、邪気を払う薬とされた菊が主なモチーフですが、昔ながらのお供え物の名残から、野菜や果物を象った落雁が作られることも。お盆の後は家族で分け合い、ご先祖さまを供養します。

三回名が変わる⁉ お盆の団子

お盆にお供えする和菓子には、落雁のほかにも、おはぎや団子などがあります。お盆と収穫期が重なる小豆の赤い色には魔除けの力があるとされ、その小豆を炊いて作るおはぎを供えることで、ご先祖さまが安心して帰ってこられる、というわけです。

団子の呼び名は、お供えする時期によって変わります。お盆の始まりにご先祖さまの長旅をいたわるのが「お迎え団子」、お盆中にご先祖のおやつとしてお供えするのが「お供え団子」、お盆の終わりにお供えするのが「送り団子」。お迎え団子とお供え団子には餡やみたらしの甘みを付けるのに対し、送り団子はあの世へのお土産として、何も付けない真っ白な白玉団子にする風習が残る地域もあります。ご先祖さまを大切にする心が、お供えからも伝わってきますね。

各地に伝承される地域のお盆菓子

この時期旅先でスーパーに寄ると、その土地ならではのお供え菓子を目にすることがあります。東北で「とうろう」や「さげもの」と呼ばれるのは、夏野菜などを象った極彩色の干菓子や、最中に紐を通したお飾り専用菓子。仏壇や盆棚に吊るし、ご先祖さまの霊をにぎやかに迎えるそう。岩手や青森南部で食べられるのが「きんかもち」。かつては高価だった黒砂糖を使うため「金貨」の名が付いたとされ、名産であるくるみや味噌を混ぜた餡を包みます。山形のお供えは、おなじみの「ずんだ餅」。枝豆が旬を迎える時期、上等なお菓子でご先祖さまをおもてなしするのだとか。風土を反映した豊かな地域性は、古来より「お盆」が人々にとって大切で身近な存在だった証といえるでしょう。

関連記事

特集記事

TOP
CLOSE