
2月に入り日が長くなると、草花も新芽やつぼみを膨らませ、新しい季節を迎える支度はもう万端。私たち人間も「そろそろ春だな」と心が弾むものです。そんな時期、和菓子店の店先に並び始めるのが「鶯餅」。ころんとした愛らしい形と美しい若草色が目を引く、早春を代表する和菓子のご紹介です。
名付け親は、茶会好きなあの戦国武将
ぽってりと柔らかい求肥で餡を包み、青大豆で作る黄緑色の「鶯粉」をまぶした鶯餅。目にも鮮やかな色合いと、名前通り小鳥のような愛嬌ある姿は、一度見たら忘れられない不思議な存在感を放ちます。ですがかわいい見た目に反して、深い縁を持つといわれるのがあの戦国武将・豊臣秀吉。時は1580年代、弟・秀長が奈良県で大茶会を催して秀吉を迎えた際、老舗菓子店が献上した餅菓子を大いに気に入った秀吉が「鶯餅」と命名したのだとか。茶会好きで知られる秀吉のこと、きっと和菓子のおいしさに気分も上々だったのでしょう。文化人らしいセンスを感じる粋な名前を得て、鶯餅はその後数百年もの間、広く愛される和菓子となったのです。

江戸のペットブームを牽引したウグイス

楊洲周延「春霞初音の鶯(部分)」(東京都立中央図書館所蔵)
鳥のウグイスといえば、「ホーホケキョ」という独特の鳴き声。春になると秋冬と違う声色で鳴き出すため、ウグイスは「春告鳥」、そしてその鳴き声は「初音」と呼ばれてきました。美しい声に魅了された人は数知れず、江戸時代にはウグイスを飼うことが大ブームに。手塩にかけて育てた自慢のウグイスを持ち寄り、鳴き声を競わせる「鳴き合わせ」という遊びも人気となりました。ウグイスが身近な存在となったことも後押ししたのでしょうか、江戸時代後期の随筆『蜘蛛の糸巻』には、鶯餅が庶民の間で親しまれる気軽な和菓子であることが記されています。ウグイスにちなみ「春告餅」「初音餅」とも呼ばれる鶯餅は、春の風物詩として定着しました。
本当に鶯色? 緑色に秘めた謎
鮮やかな黄緑色の鶯餅ですが、実際のウグイスの羽の色は緑がかった茶色。黄緑色の鳥といえばメジロが思い浮かびます。なぜこれを“ウグイスを模した餅”とするのか……昔の人がウグイスとメジロを間違えたという説もありますが、真偽は不明です。一方、江戸時代から続く老舗の鶯餅には、青大豆製ではない通常のきな粉をまぶしたものも見受けられます。いつの頃からか、春を連想させる若草色の青大豆粉を使った鶯餅が登場し、それが広まったのかもしれません。長い歴史を持つ和菓子が、時代を経て多様化するのはよくあること。いずれにせよ鶯餅が、見て食べて春を感じられる、季節感にあふれた和菓子であることに変わりはありません。
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