秋の味覚が彩る「栗名月」のお月見

歳時記

「名月」と聞いて思い浮かぶのは「中秋の名月」の十五夜。それから約一カ月後、もうひとつの名月があるのをご存じですか? それが「後の名月」と呼ばれる十三夜。この十三夜には、いまが旬の栗の名を冠した「栗名月」という呼ばれ方もあるのだとか。日本独自の風習として広まった月見の宴を紐解きます。

名前に「栗」を冠する理由は

おいしい食材が出揃うこの季節。中でも圧倒的な人気を誇るのが、ほっくりと甘い栗です。和洋問わずさまざまな栗菓子を食べ、「食欲の秋」を満喫する人も多いはず。そんな旬の味覚とお月見が合わさった風習が、旧暦の9月13日、現代では10月頃に迎える十三夜の「栗名月」です。「中秋の名月」に比べると知名度の低い「栗名月」ですが、古くは“満月に次いで美しい月”と称され、西暦919年に宮中で月見の宴を催した記録が残されています。「栗」の通称は、食べ頃を迎えた栗をお供えしたことに由来するそう。栗は縄文時代から栽培されてきたという、日本人がこよなく愛する作物のひとつ。きっと昔の人も、名月と共に味わう栗が楽しみだったに違いありません。

観月しなければ「片見月」

今でこそ知る人ぞ知る存在となった「栗名月」ですが、かつてはとても大切な行事でした。そのことが見てとれるのが、日本三大随筆といわれる鎌倉時代末期の随筆集『徒然草』の一節。十五夜と十三夜について「清明なる故に、月を玩(もてあそ)ぶに良とす」とあり、昔からこの2つの夜に月を愛でる風習があったことがわかります。先の十五夜に月見をしながら十三夜を祝わないことは「片見月」と呼ばれ、縁起が悪いとされたのだとか。ちなみにこの「栗名月」という呼称は、地域ごとにさまざまなバリエーションが存在します。一部地域では「豆名月」、「小麦名月」などと呼ばれ、十三夜の日の天候で翌年の作物の出来を占ったと伝わります。

はかなさに美を見出す日本人の感性

十五夜をはじめ、日本の風習の多くは元々中国から伝来したものですが、「栗名月」の十三夜は日本独自の風習として定着しました。そもそも十三夜を照らすのは、新月から数えて13日目の少し欠けた月。満月の完璧さとは違う、不完全でどこかはかなげな姿が日本人の美意識に響いたのかもしれません。平安貴族に愛された十三夜の月の美しさはその後も多くの人を魅了し、人間の悲哀を描いた樋口一葉の短編小説『十三夜』など、さまざまな作品の題材となってきました。澄んだ空気が清々しい10月は、お月見にはもってこいの季節。せっかくの「栗名月」ですから、おいしい栗菓子を傍らに、風情ある月をゆっくり眺める静かなひとときはいかがでしょう。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

TOP
CLOSE