材料は、土地の恵みと感謝の心 郷土愛から生まれ継がれる近江路の味

しろ平老舗

中山道65番目の宿場町、愛知川(えちがわ)。その北入口にあるしろ平老舗(以下、しろ平)は、江戸最後の元号・慶応元年(1865年)に茶屋として誕生。ういろうや酒まんじゅうを提供し、旅人や近江商人たちを癒やしてきた。

現在は趣を残す静かなまちだが、平日にも関わらず、しろ平に客足が途絶えることがない。カウンターに並ぶのは、近江の地力と歴史の賜物だ

あの名作モデルの、まんじゅうのエピソード

店内には、明治から昭和にかけて使われていた菓子木型をはじめ、当時の道具や雑貨が展示され、約160年の歴史を物語る。その展示のなかに、文豪・太宰治の娘であり作家の太田治子さんが、母・静子さんについて綴った1冊の本がある。静子さんは愛知川出身で、太宰の代表作『斜陽』の主人公「かず子」のモデルとなった人物。開かれたページには、しろ平の酒まんじゅうにまつわるエピソードがあり、たおやかで少女のような危うさをもつ「かず子」を彷彿とさせる、太宰ファンには垂涎の姿が描かれている。まんじゅうを通して伝わる、故郷を思う切なさ。それは多くの人の心に染み入るのではないだろうか。

水と米に恵まれる土地だから生まれた最中

「愛知川の自慢は、なんといっても水です」と語るのは、5代目当主・岩佐昇さん。愛知川の伏流水は、鈴鹿山脈から流れ込む清水が湧き出たもの。複数の老舗酒蔵や、コーヒー製造会社をはじめ水にこだわる多数の大手企業の工場があることからも、その価値がうかがえる。「しろ平では、地下16mから汲み上げた地下水を使っています。美しい水は土壌を肥やし、そこで獲れる米ならおいしいのは当然のこと。水と土、その恵みに感謝する思いで、材料には極力地元で穫れるものにこだわってきました」。

その、地の恵みを集結させた最中が、『極上米どころ』だ。米俵の形に“近畿の米蔵”とも呼ばれる米どころ近江を表し、中は地元特産である滋賀羽二重糯(しがはぶたえもち)を使った求肥餅入り。「先代が、近江の外にみやげとして持っていくなら、ということで開発したものです。当時、餅入り最中としては先駆けでもありました。今では“米どころのしろ平さん”といわれるほど、皆さまに喜んでいただいています」。

材料や形状だけでなく、商品名や意義にもこだわった。そのひとつが『びん細工てまり』だ。びん細工てまりとは、江戸時代からこの地に伝わる伝承工芸品。ガラス瓶の中にてまりが入っていて、「丸くて(家庭円満)中がよく見える(仲が良い)」ということから、かつては嫁入り道具とされてきた。縁起菓子にすることで地元の魅力を広く、永くつないでいきたい、そんな一貫した思いが、商品のひとつひとつに込められている。

もうひとつ食べたくなる、ふしぎな大福

近年、口コミで広がり話題となっているのが『果実彩菓きんかん大福』だ。

見た目はシンプルな大福だが、中にはきんかんの甘露煮が。贈られた人が食べて「何これ!?」と驚き、「初めての味わい!」と笑顔になることを想像しながら開発したという。「今は生のフルーツやクリームなどを用いた様々な大福がありますが、この商品はその変わり種ということではなく、きんかんの甘み・苦味・酸味のバランスや、蜜と餅の相性などを研究して仕上げた、完全なオリジナルです」。

使用するのは、宮崎県で旬の時期に穫れたきんかん。それを季節に応じて餡の甘さや餅生地のこね具合などを変え、冬はこっくり、夏は後味さっぱりと楽しめるよう絶妙な調整を図る。あえてきんかん本来の自然な苦みと酸味も残すことで、クセになると言う声が多数。「当初、偶然試してみたときに『もう1個食べたい』と思ったのが開発のきっかけでしたが、実際に2個は食べると言って多めに購入される方が多いんですよ(笑)」。

また、新たに強力な絆も生まれた。「こっちが本気なら、農家の方も更に本気。専用の畑で品質にムラがなく濃い果実が実るよう、最大限に日当たりを考慮して育てられています。今よりもっと美味しくと願うのは、ものづくりの基本ですね」。

心を味わえるのが和菓子の魅力

砂糖が不足していた戦時中のエピソードを聞いた。「多くの菓子屋は、店を閉めるか代用の品を作ったのですが、先々代は『少しでも地元の方に安らぎを』と言って、無理してでも砂糖を仕入れ、材料をかき集めてまんじゅうを作ったそうです。問屋さんも『しろ平さんは、どんなに高うても買うてくれて、作ってはった』と証言されています」。常に信念をもって作り続ければ、地域との強固なつながりが育まれる。そのためどの取引先も、またお客様も、2代、3代と長い。「先代や先々代が絶えず口にしていたのは、『身の丈に合うた商いで、無理せず、地域密着で』ということでした。無理せずと言いながら、身を削る無理はしていたのですが(笑)」。

しろ平は近い将来6代目が継ぐことが決まっており、岩佐さんは、先代たちに学んだ「菓子づくりに必要なのは、今日より美味しくするにはどうするかという探求心」という信念をつないでいきたいと語る。「ただおいしいだけではなく、『これを食べないと春が来ないね』といった、日本ならではの心を味わえるのが和菓子の素晴らしさ。菓子づくりの楽しさや和菓子の魅力を文化として後世に伝えることが、これからの私の使命です」。

御菓子司 しろ平老舗

〒529-1331 滋賀県愛知郡愛荘町愛知川1504-1
0749-42-2733
8:30 ~ 18:30
木曜日

https://shirohei.com/

特集記事

TOP
CLOSE