受け継ぐのは“粋”ごころ。 江戸の風雅をまとった里の菓子

竹隆庵岡埜

「雀より 鶯多き 根岸かな」。晩年をここ根岸で過ごした俳人、正岡子規が詠んだ句だ。江戸の昔より、根岸は文人墨客の集う風雅な里として知られ、花柳界や政治家など多くの文化・著名人に愛されてきた。

現在も、不動尊の境内には江戸百景にも描かれた「御行の松(※現在は4代目)」が枝を伸ばし、路地に入れば当時からそのままの曲がりくねった細い道が続くなど、街と江戸の名残が静かに共存する、根岸。古き良き本物を受け継ぐこの地で育まれ、磨かれた菓子がある―

地域の歴史を汲む里の菓子

かつては里に流れ込む清流・音無川の恵みを受け、上質な米がとれる田園地帯でもあった根岸。このうるち米ともち米を混ぜて作る「こごめ餅」が、江戸の庶民に親しまれていた。ある時、御行の松近く、音無川ほとりの茶屋がこの餅に餡を包み入れて上野輪王寺宮公弁法親王へ献上。お褒めの言葉とともに「こごめ大福」とお名付け頂いたのが始まりだという。

昭和33年に創業の竹隆庵 岡埜、初代店主・竹田隆さんが、地域の伝統菓子ともいえるこの菓子に新たな息吹を吹き込み、商品化。『こごめ大福(※店頭販売のみ)』が誕生した。

以来、竹隆庵 岡埜では、里の歴史を語り継ぐかのように、和菓子を通して伝統を今につないでいる。

地域に育まれたからこそ、地元に貢献

「お寺や神社はもちろん、落語家や工芸職人など〇代目といわれる伝統を背負う方々と、生まれる前からご近所付き合いがあるような環境です」。歴史や伝統が当たり前に息づく土地に生まれ育った2代目・竹田雅之さんは、店や自身がその土壌に育まれたという想いから、何よりも地域との関わりを大切にする。界隈の多くの小・中学校の卒・入学式で贈られるのは、竹隆庵 岡埜の紅白饅頭や特製どら焼き。神社の祭礼が多い5月になると、お供え餅や赤飯づくりでてんてこ舞いだ。多忙ななかでも快く児童の体験学習を受け入れる理由は、子どもたちに本当のおいしさを知ってほしいから。「食育や四季の年中行事を伝える意図から、最近は幼稚園や、小さなお子さんをもつ親御さんからのご相談やご利用が増えたと感じています。文化のひとつとして、和菓子をハレの日の楽しむ方が増えたのは嬉しいですね」。

「これを目当てに」という方が大半

初めて来店される客は、雑誌や口コミなどで情報を得て、わざわざ足を運び「これを目当てに買いに来た」という方がほとんどだという。『こごめ大福』とともに、創業時より変わらぬスタイルで竹隆庵 岡埜の人気を支えているのが、茅葺屋根を模した形がユニークな最中 『行の館』と、ほっこりとした味わいと食べ応えあるサイズが嬉しい『ほいろ栗饅頭』。そして、しっとりふわふわに焼き上げた虎縞模様の『とらが焼』だ。「虎模様+オラが焼いた」という遊び心がその名の由来だとか。

これが食べたいと思わせる竹隆庵 岡埜の餡の特徴のひとつは、甘味にミネラル豊富なきび砂糖を使用していること。程よいコクと上品な風味が余韻となって、心に残る。

シンプルで“粋”な味をこれからも

「“江戸の粋”をテーマに、伝統を未来につなぎ続けたい」と、竹田さんは語る。ただ、伝統は革新の連続という言葉があるように、変革し続ける必要があるという。

例えば、包装紙や紙袋には浮世絵師・安藤広重が描いた根岸の風景や御行の松をモチーフにしてきたが、今の時代に親しまれやすいようベースの色を変えるなど、デザインを調整。和菓子も、シンプルにもち米とあずきと砂糖で本物の味を追求するという基本姿勢は変わらないものの、素材や味、硬さや食感などは常にバージョンアップを図っている。生産地も全国に目を向け、新たなフルーツを取り入れることにも積極的だ。

変革のなかにも決してぶることがない、地域に受け継がれる“粋”な味。そこには、ふるき良き江戸の心が宿っている。

竹隆庵 岡埜 本店
〒110-0003 東京都台東区根岸4丁目77-2
03-3873-4617
8:00~17:00 日曜・祝日 8:00~16:30
水曜日 元旦

http://www.chikuryuan-okano.com/

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