

古くは京の都と下関を結ぶ重要な街道で、神戸開港以降は外国人居留地近くの商店街として発展した「神戸元町商店街」。全長約1.2kmの通りには約300もの店が並び、国内外から訪れる観光客や地域住民で連日にぎわう。なかでも革新的な再建で戦災復興の象徴ともなった3丁目には、神戸を代表する複数の老舗が集中。そのひとつである、「本髙砂屋」を訪ねる―
丸を四角にする初代・太吉の発想力

明治10(1877)年、本髙砂屋は、神戸元町商店街3丁目にて創業。商店街が誕生してすぐのことで、約150年の間、商店街とともにその長い歴史を紡いできた。本社営業部の、松原 純部長に話を聞いた。
「初代当主である杉田太吉が、『紅花堂』の屋号で瓦せんべいの製造・販売を始めたのが始まりです。当時は開港(1868年)間もなく、港を中心にあらゆる産業が急速に成長し始めていた時期。肉体労働に従事する人々には、すぐにエネルギーとなり癒しにもなる甘いものが必要だろうということで目を付けたのが、きんつばでした」

きんつばは刀の鍔(つば)に似ていることからその名前が付けられた、江戸中期より伝わる伝統的な和菓子。もともとは鍔のごとく丸い形状だったが、「それを四角い六面体に改良したのが、初代・太吉です。丸型を焼くより、四角い形を一面一面丁寧に焼く方が見た目にも美しい。それを店頭で実演し、お客様に焼きたてを提供しようという発想から『髙砂きんつば』が生まれました」。アイデアマンだった太吉氏が考案し、今や全国的にメジャーとなった四角いきんつば。店頭実演販売するというアイデアも当時は斬新で、商店街を活気付けるのに一役買った。現在も、本店限定である「鍔」模様が入ったきんつばを焼く実演を見ることができる。
洗練を極めた味と見た目で人々を魅了

本髙砂屋で『髙砂きんつば』と双璧をなすのが、洋菓子『エコルセ』だ。透けるほど薄く焼いた生地を巻き上げ、軽やかな食感と上品な口どけが楽しめる焼き菓子で、洗練を極めた味と見た目でギフトとして一躍人気に。その名を聞いて異国情緒あふれる美しいパッケージを思い出す人も多いだろう。

「1970年、3代目・政二の代に誕生した菓子ですが、これは瓦せんべいを焼く技術を応用したものです。エコルセとはフランス語を元にした造語で、木の皮の意味。薄くはがれる生地の様子を表しました」。パッケージは時代とともに変遷したものの、生命力あふれる“木”のイメージは変わらない。木の周りには生き物たちが集い、憩う。そうして新たな活力を得て明日への元気が生まれる。その世界観を支える印象的なデザインワークは、戦後日本を代表する美術作家・綿貫宏介氏によるものだ。『エコルセ』は、兵庫ブランドを支えたアート界の巨人の仕事とともに、未来へと継がれていく。
和洋両軸。自由であるために変えられない

神戸元町本店は中ではつながっているものの、外観は、左は和風で右は洋風と分かれている。和洋両軸なのも、本髙砂屋の大きな特徴だと松原氏は語る。「型に縛られるのではなく、自由な発想を大切にし、個々を受け入れ尊重するのが本髙砂屋の姿勢です。国際色豊かな神戸らしくもあり、それがこの地に愛され続ける一因かもしれません」。そこにあるのは、社是である「旨楽味遊(しらくみゆう)」だ。美味さを楽しみ味に遊ぶという意味だが、“味に遊ぶ”とは作り手側の心得だという。発想ひとつで、味も食感もアレンジは無限。遊び心をもって自由に挑戦を楽しもうという、創業者の思いが込められた言葉だ。

本髙砂屋は伝統に挑戦し、時代に合わせて革新性を発揮してきた一方で、「変えてはならないもの」はかたくなに堅持してきた。例えばあんこは、北海道産の小豆を水のきれいな新潟・魚沼の工場で製造。菓子づくりにおいては一貫して自社で完結させる。「どこかを他社に頼れば、思う味が出せないなどかえって不自由を生みます。自由に挑戦し続けるためにも、守るべきものは守り続けるのです」。
神戸発、メイド・イン・ジャパンの誇り

次なる自社の目標として、「メイド・イン・ジャパンの実力を、世界に知らせたい」と力を込める松原氏。きんつばをはじめとする和菓子の人気は、すでにアジア諸国を中心に広がり始めているが、いま意外な理由から中華圏で『エコルセ』が大人気なのだとか。「縁起がいいとされる華やかな金や赤の包み紙が、春節祭などの贈り物として喜ばれるのです」。

そして、地元神戸の応援だ。2024年には神戸のチーズメーカー、六甲バター株式会社の代表商品「QBB」とのコラボで、『チーズエコルセ』を開発。おやつにもお酒のおつまみにもなるとして、新たなファンを獲得した。地元のメーカーと共に、何かおもしろいことをして神戸を盛り上げたい。そんな思いから「次は何を仕掛けるか」と、今日も研究開発が進められている。
インタビュー 2026年2月
本髙砂屋 神戸元町本店
兵庫県神戸市中央区元町通3丁目2-11
078-331-7367
10:00〜19:00(喫茶は17:00まで)
定休日:第1・第3水曜(祝日は除く)
https://www.hontaka.jp/
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